杉本さんの没後1周年企画展で公開する『申楽新記』の自筆原稿や広辞苑

 熱海市の名誉市民で文化勲章受章の作家杉本苑子さん(1925~2017年)が初めて手掛け、懸賞小説で入選したものの出版されることなく“幻の作品”となっていた『申楽(さるがく)新記』の自筆原稿が、晩年を過ごした市内の自宅で見つかった。市は杉本さんの命日の31日から、旧居「彩苑」で開く没後1周年企画展で公開する。担当者は「杉本先生がどのような思いで筆を進めていたか、思いをはせながら見てもらえたらいい」と話す。

 1951年に杉本さんがサンデー毎日の懸賞小説に応募し、歴史小説部門で佳作に選ばれた作品。同誌には入選者として名前のみ掲載された。

 同作をベースにした『華の碑文』を収めた全集第2巻のあとがきには、世阿弥について書いた作品だということとあわせ「応募原稿も返却されないのが原則でしたから、氏名発表のあとは用済みとなってそのまま廃棄されたのでしょう」とある。

 自筆原稿は杉本さん亡き後、自宅に残された文学的資料の整理を進めてきた男性が今年4月以降、多くの自筆原稿の中から見つけたという。投稿原稿そのものなのかを含め、杉本さんの手元に残された経緯は不明だが、相磯浩・市文化交流室長は「『申楽新記』の原稿はもうないのかもしれないと話していたので驚いた。奇跡的に思える」と語る。

 作品は原稿用紙104枚に記され、右上で丁寧にとじられている。1枚目は題名のみ、原稿の途中には、数行にわたって斜線を引いた箇所や、文字の上に線を何本も引いて書き直した跡もある。

 「彩苑」では6月3日まで展示し、その後は市が杉本さんの自宅に開設を目指す「熱海文学館(仮称)」の展示資料となる。

 ■愛用の広辞苑と万年筆など 起雲閣でも企画展

 杉本苑子さんの没後1周年企画展は「彩苑」のほか、起雲閣でも6月3日まで開く。起雲閣では愛用の広辞苑と万年筆などを展示する。

 広辞苑と万年筆は展示後、杉本さんの遺志に従い、日本文芸家協会が管理する富士霊園(小山町)内「文学者の墓」に納めるという。

 時間は午前10時~午後4時。

 【写説】杉本さんの没後1周年企画展で公開する『申楽新記』の自筆原稿や広辞苑