草が生い茂る街中の空き地、狭い路地、多賀の海…。現役美大生らによる展覧会「アタミ・アート・ウイーク」のメーン会場に並んだ風景画に目を引き付けられた。東京造形大4年の鈴木媛[えん]琳[りん]さん(23)の作品で、恋人と一緒に見た熱海の風景を題材にしたのだという

 ▼若者が描き出した熱海の景色に自分の心象を重ねて見るのは楽しく、鈴木さんの「歴史を風景が物語っている。街の雰囲気に温かさを感じた」という言葉もうれしかった

 ▼前後してもう一つ、熱海を題材にした作品に出合った。第20回伊豆文学賞で最優秀賞に輝いた中尾千恵子(筆名・ちゑこ)さん(70)の小説「熱海残照」だ。熱海市内に移り住んで10年になる中尾さんが、自分が感じる熱海の特徴を描きたい―と執筆した

 ▼熱海梅園、頼朝の一杯水、街中のスーパーや葬儀場なども出てくる。その場所を思い浮かべながら読んだ。熱海を「非日常が日常化している」「多様な人生がモザイク模様を成して漂っている」などと表現し、なるほど、とうなずけた

 ▼尾崎紅葉の「金色夜叉」をはじめ、これまでも多くの小説や絵画に描かれてきた熱海。今も誰かが題材にしている。熱海を描いた作品を楽しみ、この町の魅力も見詰めたい。