山あいの畑に植わる木々の間を進むと、爽やかな香りに包まれた。思わず深呼吸、冷たい空気も心地よく感じた

 ▼熱海市内で最も多くのダイダイを生産しているという倉田晃平さん(73)の畑を訪ねた。正月飾り用の実の収穫が進められていて、妻とし子さん(71)ら女性たちもはしごを登って次々と実をもぎ取っていた

 ▼ダイダイは実が熟しても木から落ちにくく、「代々」に通じることから縁起物とされる。生産量日本一といわれる熱海では、江戸末期に栽培が始まった。風待ち港の網代に寄った紀州の船乗りたちが食べ残した種を植え、育てたのだと伝わる

 ▼南熱海地区で栽培が広がったが、戦時中はサツマイモなどを作るために木を切ってしまう家が多かったという。倉田さんの父親は「ご先祖様が植えたものだから」と木を残し、倉田さん自身も種から丹精して増やしたのだという。「ダイダイが人生みたいなもの。縁起物に使ってもらえるのもうれしい」

 ▼樹勢が衰え、生産者も高齢化し収穫量が減っているという。一方で“熱海らしい素材”としてアピールしようと、市内では活用した新メニューの開発が進む。需要が増え、単価が上がり生産の現場が活気づくことを期待したい。