庭の片隅に白い花が咲いていた。冬の初めに植えた苗が花を付けたらしい。庭仕事をしていた母に教えられて初めて気付いた

 ▼ほとんど毎日前を通っていたはずだが、目に入らなかった。目の前にあっても、見ようとしなければ見えないものがある。花の前をアリが歩いていた。アリを目にしたのも、久しぶりだった

 ▼「山のいちにちありもあるいてゐる」。種田山頭火の句だ。伊東市の和田湯会館で開かれた「山頭火まつり」の書道展会場に展示してあった。漂泊の俳人山頭火は1936年4月に同市を訪れ、和田湯近くの宿に滞在した。地元の玖須美文化振興会はゆかりの俳人を顕彰しようと毎年この時期にまつりを開いている

 ▼福田墨水書道教室代表の福田美州さんと生徒が、山頭火の句や詩を題材にした作品を出展した。「山頭火の作品は明るいか暗いか両極端。子どもたちにはなるべく明るい句を選んで薦めた」と福田さん。確かに、伊東で詠んだ「伊豆はあたゝかく死ぬるによろしい波音」は味わい深いが、子どもの手本にはふさわしくない

 ▼「よい湯からよい月へ出た」「てふてふひらひらいらかをこえた」…。山頭火には、目の前にあるものがあるままに見えていたようだ。うらやましい。