中国の儒学者・孟子の「性善説」は、人間は善を行うべき道徳的本性が先天的にあり、悪の行為はその本性を汚損、隠蔽[いんぺい]することから起こる(大辞林)という

 ▼だとすると、伊東市の前市長・佃弘巳被告(71)=公判中=らによる土地取引に絡む贈収賄事件は、善の本性を汚して金銭の授受を隠し、私腹を肥やした行為と言っていい

 ▼この事件を受けて設置された市の検討委員会が先日、検証結果を公表した。前市長の在任中に取得した10カ所の公共事業用地のほとんどで購入経緯の記録がなく、半数以上が購入意思決定の過程が不明だった。トップダウンの市政を行った前市長と事務手続きを怠った市組織の双方に問題があった、と結論付けた

 ▼前市長が単独で地権者と交渉したため、職員が把握できなかった土地が4カ所もあったという。怒りよりもあきれたというのが正直な感想だ。一極集中の権力を恐れるあまり、暴走を止めることができなかったのだろうか

 ▼授受された金銭は市民が行政を信頼し、サービス向上などを託して収めた税金だ。職員はあらためて、そのことを真摯[しんし]に考えてほしい。市役所は「市民の役に立つ人のいる所」。「性悪説」がささやかれる場所であってはならない。