熱海市で先日開かれた心理学者で慶応大商学部教授の吉川肇子さんを講師に迎えた地震防災講演会は、心理学の切り口から災害への備えを喚起する興味深い内容だった

 ▼吉川さんは「災害を甘くみてしまうのが人の心理」とし、リスクに対する人の行動と考えの“癖”を紹介した。確かに2011年の東日本大震災の大津波では「ここなら大丈夫」「大したことにはならないだろう」との楽観的見方から多くの人が命を落とした

 ▼行政の防災対策もしかりである。関係機関が「世界一」と誇ったスーパー防波堤は崩壊し、三陸沿岸の高さ10メートルを超す防潮堤を越えた津波は街を、人をのみ込んだ。福島第1原発の事故もそんなリスク軽視の結果だったと言える

 ▼「後悔するであろう悪い結末を考えることで人は行動を変える」と語る吉川さんの言葉に習えば、地震、津波で家や大切な人を失うかもしれないと最悪の結末を考えることで、災害への備えは手堅いものになる

 ▼電力各社は現在、最大級の地震・津波を想定した対策を整え、原発の再稼働を目指している。事故に備えた避難訓練も行っているが、肝心の事故がもたらすであろう悲惨な光景、悲劇の想像が抜け落ちているように感じてならない。