桃の節句を前に、今年も歌人・国文学者の佐佐木信綱が晩年を過ごした熱海市西山町の旧居「凌寒[りょうかん]荘」を訪ね、ひな人形による季節の演出を取材した。愛らしい人形を眺めていると、仕事だということを一瞬忘れて心が和んだ

 ▼管理・運営に携わる有志グループ「凌寒会」が近所の住民から譲り受けた人形で、今年も信綱の愛妻・雪子の居室だった4畳半に飾った。緋毛氈[ひもうせん]を敷いたひな壇に人形が並ぶ光景は、土・日曜日に公開される庭園から見ることができる

 ▼庭先では白梅が咲き誇り、ひな人形とともに春めいた雰囲気を醸す。梅は凌寒荘の名の由来となった老木で、徳富蘇峰が中国の文章家王安石の詩「梅花」の一節をとって名付けたという。「寒さを凌[しの]ぐ家」とは温暖な熱海の住まいにぴったりの名だ

 ▼「真冬を知らざる常春熱海…」。信綱と同様、晩年に熱海で暮らした文豪・坪内逍遥は熱海町歌(現・市歌)の詞の冒頭に書いた。逍遥の旧居は「双柿[そうし]舎」で、庭にあった2本の柿の古木にちなむが、今はツバキや梅、キバナアマが見頃

 ▼日曜日のみ見学可能だが、逍遥忌の28日は特別公開される。文人の旧居を訪ね、“常春熱海”を感じる―。熱海の楽しみ方の一つとしてお勧めしたい。