於畑山

田疇処々聴蝦蟆

平原焼痕草自芽

報霽頻呼蔵葉鳥

随風遙送隔林花

分流架得短長〓

叢樹欠辺三四家

好景一望眞如画

不如佇立夕陽斜

 畑山にて

田疇[ちゅう]処々 蝦蟆[がま]を聴く

平原の焼痕 草自から芽ぶく

霽[はれ]を報じて頻りに呼ぶ 葉に蔵れる鳥

風に随って遙かに送る 林を隔つ花

分流架し得たり 短長の〓[しゃく]

叢樹欠くる辺 三四家

好景一望 真に画の如く

如かず 佇立して夕陽の斜めなるに

     ◇……………………◇

(語釈)

田疇=はたけ。

〓=とい。川の水を引いて、水田に注ぐ仕掛け。

(訳)

畑山にて

田のあちこちにガマの鳴く声

野焼きのあとに青い草の芽

春告げて鳴く葉蔵[がく]れの鳥

風に吹かれて翻[ひるがえ]る花

流れを分ける短長の樋[とい]

森のはずれに四、五軒の家

画[え]にも描けない景色に見とれ

夕日の中にたたずみ尽くす

 七言律詩。押韻=蟆・芽・花・家・斜(平声麻韻)

 首聯[しゅれん](1・2句)田んぼには水が張ってあるので、蛙が鳴いている。「処々」は、ところどころ、ではなく、あちこにちに、の意。唐の孟浩然[もうこうねん]の名詩「春暁」にも、「処々聞啼鳥(処々啼鳥を聞く)」とあり、あちこちに鳥が啼[な]いているさまを描写している。第2句は、草原の野焼きの後、若草が生えている景をうたう。

 頷聯[がんれん](3・4句)首聯では地面(下)の方の状景を詠うのに対し、この聯では(上)の方、葉隠れに鳴く鳥(動物)と森に咲く花(植物)の組み合わせで詠い、立体感を表わす。

 頚聯[けいれん](5・6句)情景描写に動きを加え、川の流れを引いて畠に取り込む「〓」、歩く途中に森が開けて現れる数軒の農家を描き、景色に奥行きを加える。

 尾聯[びれん](7・8句)最後に、画のような景色に見とれ、夕日を浴びながら立ち尽くす“自分”を描いて結ぶ。

 田園詩人・坦庵先生得意の叙景詩の佳作である。

(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長)

 ※〓はギョウニンベンに的のツクリ