伊豆名人に挑戦(上)

 先手・石田豪成(熱海市) 後手・原芳久(熱海市) 自戦記・石田豪成(五期、十一期伊豆名人)

 ・日本中に高揚感

 2017(平成29)年3月26日(日曜)は、日本中に不思議な高揚感がみなぎった1日だった。甲子園では第2試合と第3試合が、いずれも延長十五回を戦って引き分け再試合。大阪場所では稀勢の里が奇跡の逆転優勝を果たしている。将棋のNHK杯戦では佐藤康光九段が佐藤和俊六段を、超力戦にあえて誘導して見事優勝を果たしている。その日に、私は伊豆名人位タイトル保持者の原芳久さんに、一局の教えを請うた。過去の対戦成績は私の記憶を整理すれば、私の1勝4敗である。菊地常夫七段との駒落指導対局では私が飛車落であるのに対し、原さんは角落である。この棋力の差は抜くに抜けない格の違いである。それでもである。勝率2割に私はわずかな期待を胸に原さんと対座した。原さんは居飛車一刀流の使い手である。剣道で言えば剣を中段に構えて相手の目を正視する。正眼の構えである。将棋で正眼の構えと言えば矢倉である。上位者に奇策は通じない。私は矢倉戦を覚悟していた。

 第1図は典型的な矢倉戦である。目につくのは先手■6五歩の伸びすぎである。□3五歩■同角の後に、前哨戦とも言うべき小競り合いは、この■6五歩を巡って始まった。□6四歩の反発がそれである。小競り合いと言ってもおろそかにはできない。一手の失着が命取りになるからである。■6四同歩は絶対である。後手□同銀もある所だが原さんは□同角と出て決戦を迫ってくる。対して先手■4六角はこの一手だ。原さんは□7五歩と戦線を拡大してくる。ここでは■7五同歩とは取らずに■3八飛と寄って、後手の狙う□3九角打に備える手もあった。以下□7六歩■同金と取りたい。■同銀では形が乱れる。こうなるかどうかは原さん次第だが、本譜では■7五同歩と素直に応じた。こうなれば□4六角■同銀□3九角打!!■3八飛□7五角成■3七桂までは一本道で第2図となった。

 【図版】1図(■3五歩まで)

 【図版】2図(■3七桂まで)