村 居

独喜村居自避囂

荘前空架小斜橋

狸奴日暖眠簷角

鳩婦雨晴安樹標

花殿残春紅躑躅

葉驕初夏碧芭蕉

柴門深鎖閑窓午

臥看遊糸送寂寥

独り喜ぶ 村居自ら囂[ごう]を避くるを

荘前 空しく架く小斜橋

狸奴[りど]は日暖かに簷[えん]角に眠り

鳩婦[きゅうふ]は雨晴れて樹標に安んず

花は残春に殿[でん]す 紅躑躅[てきちょく]

葉は初夏に驕[おご]る 碧芭蕉

柴門深く鎖ざす 閑窓の午[ひる]

臥して看る 遊糸の寂寥を送るを

     ◇……………………◇

(語釈)

囂=喧しさ。

狸奴=猫。

鳩婦=雌の鳩(解説参照)。

簷角=軒先。軒端[のきば]。

樹標=木末(こずえ)。

殿=しんがり。

躑躅=ツツジ。

遊糸=かげろう。

(訳)

 田舎暮らし

喧噪[けんそう]を避け田舎に暮らす

家の前には橋が斜めに

猫は軒端[のきば]の日向[ひなた]で眠り

鳩は梢で晴を喜ぶ

赤いツツジは春のしんがり

碧[あお]い芭蕉は夏のさきがけ

柴の戸閉ざす真昼の窓辺

寝っころがってかげろうを見る

     ◇……………………◇

 七言律詩。押韻=囂・橋・標・蕉・寥(平声蕭韻)

 「村居」と題する詩2首の「其の二」。

 首聯[しゅれん](1・2句)第2句は、「屋敷(荘)の前には、斜めに架けた小さい橋が“空しく”架かっている」というのは、誰も橋を渡って来ない、という意味。

 頷聯[がんれん](3・4句)対句。猫は軒下で、鳩は枝上で、と上下の組み合わせ。雨上がりの日差しの中の“日常的”な情景を、立体[・・]的に描く。

 頚聯[けいれん](5・6句)対句。春と夏の季節の狭間[はざま]を、赤と青の色の植物で描いた、技巧的な表現。

 尾聯[びれん](7・8句)第7句の“深”と“閑”が、最後の“寂寥”を引き出すはたらきをしている。そしてこの語が、最初の“独喜”と照らし合って、作者の“複雑な心境”を表している。

(解説)古典に、「鳩は雨が降るとその嬬[つま]を追い、晴れると呼び寄せる」とある。ここでは、晴れたので仲良く樹上に止まっている、の意。

(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長)