温泉情緒の象徴として松川沿いを歩く芸妓の看板が観光客を迎える=JR伊東駅前

 温泉地伊東に地方[じかた]がいない。そんな状況を人一倍憂えている人がいる。ホテル暖香園社長・北岡貴人さん(81)は、伊東温泉屈指の老舗ホテルの社長として、長く花柳界を間近に見てきた。盛衰の過程も知る北岡さんは、伊東花柳界復活の鍵を地方育成に見ている。

「地方がいないと立ち方は様にならないよ。テープではね…。三味線奏者を育てる必要がある。ただ、今の伊東の状況では見番や置屋が育てるにしても限界があるのではないか」

 ■給料もらい稽古

 若者が給料をもらって稽古をするシステムづくりの必要性を強調する。

 「例えばだけどね。伊東の旅館やホテルが学校を卒業した女の子を雇う。朝夕は旅館の仕事をして給料を払う。日中は三味線の稽古をする。大学に行ったつもりで4年間は続けてもらってね」。北岡社長の提案のように収入を安定させなければ、芸妓[げいぎ]を増やすこと、ましてや習得に時間がかかる三味線奏者の育成が難しいのは確かだ。

 「私が50代くらいだったらやっていたかもしれない」と北岡さん。育成の参考モデルとして伊豆の国市の観光施設「みんなのハワイアンズ」を挙げた。観客500人を収容できるステージでは、フラダンスを披露する「ポリネジアンショー」がほぼ毎日行われている。出演する専属ダンサー「ロコガールズ」たちは、社の従業員として働きながら稽古もしてショーに出演している。収入・稽古・発表の場、それら全てが得られるシステムが合理的だ。施設は一部を除いて今年8月末に閉園するものの、持続を目指した育成事業例として参考になる。

 ■内外、手を取り

 伊東温泉旅館ホテル協同組合専務理事の磯川義幸さんも、芸妓育成に花柳界以外の人たちが関わる必要性を感じている。「どういう形かは分からないが、今までのように外部がノータッチでいるよりも花柳界と関わり合いながら皆で協力して芸妓を育成できればいい。ただ、花柳界は独特の世界。あくまでも芸妓衆が主体となって本来のスタイルを守りながら、われわれが協力できる内容を提示してもらうと互いに動きやすいのではないか」

 ■フジヤマ・ゲイシャ

 2020年東京五輪の開幕まで3年を切った。磯川さんは「『フジヤマ・ゲイシャ』と言われるように、外国人にとっても興味深い対象。芸妓がいる温泉地を選んで訪れる外国人観光客も多いでしょう。芸妓は伊東の武器になります」とも語った。

 ■情緒大事に

 北岡社長は、温泉地伊東としての在り方についても語る。「何をもってお客さまからお代を頂くか。温泉地のホテルとして、情緒を大事にしたい」

 3年後はもちろんのこと、伊東温泉の隆盛を「百年の計」の精神で考えたい。時間のかかる地方、芸妓の育成に向けて花柳界内外が一体となり現実的な動きを始める時ではないだろうか。

 (本社・平田春日記者)

 地方(じかた)…踊り手の「立ち方」に対し、三味線や囃子など音楽を受け持つ人。この連載では特に三味線奏者を指します。

 【写説】温泉情緒の象徴として松川沿いを歩く芸妓の看板が観光客を迎える=JR伊東駅前