南伊豆町史編さん委員会は「資料第1集 寺院編」に次いで「資料第2集 神社・石造物編」を刊行した。町内の石造物は今までにほとんどを見ているが、“甲人の塔”はまだなので調査を行った。一条の山奥、下田市との境にあるこの塔には、次のような物語がある。

 昔、甲斐国に弓の上手な狩人がおり、伊豆岩科の山口に滞在して猟をしていた。このとき、松崎の池代から小杉原、南伊豆の蛇石の台地を行き来する大蛇に村人が悩まされている話を聞き退治に向かったが、逆に大蛇にのまれた。哀れんだ村人は塔を建て霊を慰めた。仁平3(1151)年のことで、大きく平らな岩の上にあるため塔の平・甲人の塔と語り継がれてきた。

 これと別に大蛇にのまれたのは絹商人で、その娘2人が甲州から来て弓矢で大蛇を射殺し父の仇を討ったという話もよく知られる。

 ともあれ興味のある「甲人の塔」。尾形、高橋、内藤、渡辺の4人の委員は子どものころ塔を見たという一条の長老、85歳ながら元気のいい吉田明さんを案内人に頼み調査に向かった。一条竹の子村から日枝神社左側の登り道を北に2キロほど行ったあたりで車を降り山に入った。かつて木材の切り出しや炭焼きに使ったと思われる道は崩れ、荒れ果てた傾斜地をはぐれないよう互いに声を掛け合い休みながら2時間ほどで一つの峰に着いた。

 向こうはゴルフ場や横川温泉のようであった。吉田さんの記憶と高橋さんのタブレットを頼りに探ると、数坪の平らな岩の上に3個の石造物を見つけた。古くて掘られた文字は分からないが、甲人の塔と思われる50センチの塔。両脇に聖観音菩薩像、納経塔がきちんと並んでいた。今や参る人とてない辺境の地に厳然と立つ石造物に、改めて歴史の重みを感じる。