信託利用し、事業承継の時期を調整

 前回、信託という方法のあらましを簡単に説明しました。信託による事業承継の可能性について、事例を見ましょう。

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 ワンマン商事株式会社の経営者(代表取締役)であり、100%株主のワンマン太郎さん、子は2人(長女・花子、長男・継郎)で妻は死去しているとします。太郎さんは、継郎を後継者にしたいが、継郎に任せるのは時期尚早と考えているとします。

 株式の価値が低いうちに株式を継郎に贈与すれば贈与税が少額ですみます。しかし、50%以上贈与すると、経営権(特に前回見た株主総会での議決権の過半数)が継郎に移転します。そこで経営権を確保しつつ株式を承継させる方法として、信託を利用することにしました。

 委託者である太郎が所有するワンマン商事株式全部を受託者であるX信託銀行に信託し、継郎を受益者とする信託を設定します。

 株式の議決権は受託者であるX信託銀行が行使することになりますが、議決権行使について指図(さしず)する権利を太郎が保持することにします。信託期間は太郎の死亡時までとします。また、継郎が後継者としての力量を備えた段階で、議決権行使の指図権を太郎から継郎に譲渡します。

 このような信託を設定することで、会社の株式を現経営者の相続財産から切り離しつつ、実質的には経営権を現経営者が確保できます。

 以上は紹介のための簡単な事案です。信託を利用して、より複雑なスキームを組み立てることも可能です。

(小田原市・伊奈綜合法律事務所、伊豆の国市出身)