熱海温泉の「金色夜叉」同様、下田を舞台とした「唐人お吉」が戦前、爆発的な人気を呼んだ。小説に加え、芝居や映画になり、歌にまで歌われ「下田」の名を一躍全国に知らしめた

 ▼「侍妾[じしょう]としてハリスに仕えたことから、人々から“唐人”や“ラシャメン”とさげすまれて身を持ちくずし、稲生沢川で入水自殺した」―そんな物語が同情を買い、戦前の反米感情と相まって国民の心を捉えた

 ▼だが、その悲劇を強調した物語は、地元としては決して好ましいものではない。第一に看病のために仕えたお吉ばかりでなく、色情にされてしまったハリスも冒涜[ぼうとく]している。第二にお吉を自殺に追い詰めた町ぐるみの「いじめ」の話でもあるからだ

 ▼物語に創作が多々含まれていることは、有識者の間では常識だが、お吉が実在の人物であることから信じている人も少なくなかった。そこで幕末お吉研究会の杉本武代表が本紙に寄稿し、綿密な調査と研究を基にお吉物語が作られた過程をつまびらかにしてくれた

 ▼さらに同研究会は「唐人お吉」を漫画化し、従来の悲劇のヒロインとは異なる勝ち気なお吉像を描いた。下田では来週27日、恒例の「お吉まつり」が開かれる。新たな視点でお吉さんに感謝したい。