東京都北区の築100年を迎えた旧古河邸・大谷美術館で開かれている「ドナルド・キーンのまなざし 宮沢正明写真展」(~8月5日)に行き、心が満たされた

 ▼キーンさん(96)は、宮沢さんが伊勢神宮の式年遷宮を撮影した写真集に推薦文を寄せたことで知り合った。写真展は北区名誉区民のキーンさんが書斎で執筆する日常や新潟・柏崎、英国ケンブリッジなどの旅先での様子を写した約60点が並ぶ

 ▼日本文学研究の泰斗[たいと]であるキーンさんが思考し、ほほ笑む姿などがある中、大きく引き伸ばされた横顔の一枚に引かれた。深いまなざしで見詰めていたのは何だったのか

 ▼説明文はなかったが、キーンさんがそこにいるかのように錯覚した。3年前、下田であった上原近代美術館開館15周年記念講演会で「真の友と言える人」だった三島由紀夫との思い出を語った姿を客席から見ていた時がよみがえった

 ▼以前読んだ「ドナルド・キーンの東京下町日記」(東京新聞)で、日本の「お互いさま」という共同体意識が社会を支えていた―と書いていた。格差や子どもの貧困を嘆き、「貧しくも豊かだった日本が、豊かだが貧しい国になりやしないか、危機感を持っている」との言葉が忘れられない。