木槿[むくげ]は夏から秋にかけて白や紫、赤などの花をつける。朝に咲き夕方にはしぼんでしまうことから、人の栄華のはかなさに例えられる

 ▼先日、近所の書店で文庫本を眺めていると一冊が目にとまった。裏表紙の説明文に、8月になると意識する女性作家の名前があった。「山口瞳ベスト・エッセイ 小玉武編」(ちくま文庫)。その中の「木槿の花」は、向田邦子さんの事故死をつづる

 ▼直木賞の選考委員だった山口さんは、向田さんを強く推した。「極めて短い期間に、頂上まで天辺[てっぺん]まで登りつめてしまった」「彼女は自分の死期を知っていたのではないかという気もしているのである」と振り返る

 ▼今年出版された雑誌「文春ムック・完全保存版 向田邦子を読む」(文芸春秋)に弟保雄さんと、タレントのイーデス・ハンソンさんの対談(週刊文春からの転載)がある。添えられたモノクロ写真は「昭和13年。伊豆の今井浜で」とあり、おかっぱ頭の邦子さんと丸刈りの保雄さんらが、波打ち際でほほ笑んでいる

 ▼向田さんの短編小説「幸福」に、伊豆の海沿いにある荷物一時預かりの店が出てくる。9歳ごろ訪れた伊豆に、その後も何度か来ていたのではないか。あす22日は向田さんの命日だ。